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風景が浮かぶ酒

日頃からお世話になっている福岡市薬院にある『ブックバーひつじが』さん。

とある日の事、こちらでいただいた『なかむら』のお湯割り。

まるで温泉に浸かっているような感覚になる癒しの液体でした。

大袈裟でなく、細胞に『びびびび』っと浸透してくるような何かを感じる体験だったのを今でも記憶しております。

この『びびびび』の所以は一体何なのだろうかと真相を探るべく、スタッフ一同で中村酒造場さんを訪問させていただきました。

「一生懸命なのは当たり前。」

そう話すのは杜氏の中村慎弥氏。

一つ一つの事に全身全霊の若き名杜氏の目指す酒造りとは。
今回は『なかむら』『甕仙人』『玉露』の美味しさ、そして魅力の源泉に迫ります。

"『美味しい』の先にある『風景が浮かぶ酒』"を追求していく。

慎弥さんの根源にある製造理念です。

『風景が浮かぶ酒』を造るためには何が大切なのか。地元の芋、米、水などの原料を使う事はもちろんの事、人や微生物の存在も欠かせません。

酒は発酵によって生まれます。その発酵に微生物が大きく関わっている事は言うまでもないでしょう。

焼酎造りにおいて、微生物と手を取り合って進めていく工程の一つが麹造り。この麹造りこそが、中村酒造場さんを語る上で欠かせない工程なのです。

慎弥さんは芋焼酎を寿司に例えます。

芋焼酎は『芋』と『米麹』で造られますので、『寿司のネタが芋』、『シャリが米麹』という事です。

ほぼ全てのラインナップが『黄金千貫』で造られる中村酒造場さんの場合、全てマグロ寿司一本勝負のようなものなのです。

マグロ寿司のみで飲み手を感動させる、その姿勢に慎弥さんの覚悟と信念を感じる事ができます。

だからこそ『ネタ(芋)』だけでなく、『シャリ(米麹)』にも注力する。

麹造りが中村酒造場さんにとって、どうして大切なのかという事がわかっていただけたのではないでしょうか。

『なかむら』『甕仙人』『玉露』のラベルに刻まれる"手造り”の文字。
これは”麹造りが手造り"という事を意味しています。

実はこの"手造り"の文字をラベルに表示するためには、国税庁が発刊している公正競争規約の中に細かな規定が以下のように定められています。

『麴蓋(麴蓋に代る箱を含む。)を用いて、自然換気保温室で自然の換気、通気と手入れ撹拌によって製造した麹を使用したしょうちゅう乙類でなければ「手造り」の文字を表示してはならない。』

中村酒造場さんでは、上記の条件はもちろんの事として、全ての焼酎の麹を『蓋麹製法(ふたこうじせいほう)』という1.5~2.5kgほどの麹を入れることのできる小箱で製麹する本当に手間や時間のかかる造り方で造っておられます。

『蓋麹製法(ふたこうじせいほう)』は、手間暇がかかる分、質の良い麹ができます。その為、日本酒の場合には、鑑評会に出品するような出品用の大吟醸酒に採用されるような造り方です。(毎回やるの大変なので高品質の酒の時だけ実施する)

それを、すべてのラインナップで行なっている【全量蓋麹製法】という事が驚きのポイントで、他の蔵元さんもなかなか真似できない方法なのです。

わたくし事ですが、本当にありがたい事に、以前蔵にお伺いさせていただいた際、中村酒造場さんの代名詞である麹造りをお手伝い(というか体験)させていただいた事があります。

小さな木箱(麹蓋)が無数にあって、ひとつづつ丁寧に手作業で攪拌して綺麗に並び替えていきます。(1回の仕込みでだいたい200個位使います)

ホントめちゃくちゃ手間がかかります。(蔵人の皆さんは"所作が美しい")

この手間をかける事で、強く綺麗な麹ができるだけでなく、魂(心に訴えかけてくる何か)が宿っているのではと、割と真面目に私は思っております。

もう1点、中村酒造場さんの麹造りを語る上で欠かせないのが【機械的熱源不使用】という点です。

これはどういう事かと申しますと、多くの蔵元さんが麹造りの際に用いている、温度調整のための『ヒーター』や『扇風機』などを使わない(正確には麹が室にある時には使わない)事を意味しています。

麹は適正の温度下(30~40℃)で育っていきますので、この範囲を下がったり、上がったりしないように、麹造りにおいてはヒーターや扇風機を状況に応じて活用します。

中村酒造場さんの麹造りでは、この機械的な熱源を基本的には使われません。

それはなぜか。慎弥さんに聞きました。

「『風景が浮かぶ酒』を造るためには、その土地の気候からまずしっかり寄り添う事が大事だと思っています。ある意味小手先ともとれる機械からの熱源は排除したいというのが理由です。

目にみえる分析値、データ、エビデンスを追う事も大切ですけど、そこにとらわれすぎると酒がつまらなくなる気がするんです。

どれだけ技術・性能が高いフーリーズドライのお味噌汁が出てきたとしても、小さい時に食べたおふくろの味噌汁にはかなわない。

もちろん僕だってフーリーズドライのお味噌汁を食べる事もありますが、あの時のおふくろの味噌汁のあたたかさ、味わい深さ、懐かしさには敵わない。あの味は絶対にインスタントではできないんです。

おふくろの味噌汁にエビデンスはなかったはず。あの美味しさを大事にしていきたい。そういう焼酎を僕は造りたいんです。」と慎弥さんは教えてくれました。

数値に表れない『美味しさ』を探求していく。そして、その土地の気候に寄り添い、菌の持つ力を最大限に引き出す事で生まれる液体こそが、"『美味しい』の先にある『風景が浮かぶ酒』"なのかもしれません。

中村酒造場さんのとても興味深い取り組みがあります。

それは『三種混合麹』です。

一般的に焼酎は、白麹、黒麹で造られます。(近年一部の商品で黄麹を使う蔵もあります)

中村酒造場さんでは9月の中旬の1週間ほどの期間で、麹室と外気温の温度がちょうど同じ位になる期間があります。

この期間にのみ製造されるのが、『三種混合麹』です。

『風景が浮かぶ酒』を造るためには"その土地に根ざしたもの"を使う必要があり、それはもちろん長年蔵に棲み付く『菌』も同様であるという理念に基づいて生み出されたものになります。

焼酎造りに使用される白麹や黒麹は、一般的には麹屋さんから購入したものを使います。(そもそも種麹から自社のものを使うというのは私の知る限りどの蔵元さんもやっておられません)

慎弥さんは、そもそも蔵の中に蔵付き(もしくは麹室付きの)種麹が存在するのかさえ分からないまま、使命感に突き動かされトライ&エラーを5年ほど繰り返した結果、古くから残る中村酒造場の麹室の中から『白麹・黒麹・黄麹』の種を出現させる事に成功されたのです。

(※余談ですが、白黒黄というのは人間の肌の色と同じですよね。なんか神秘的ではありませんか!)

不可能と思われていたこれらの菌の共存が、慎弥さんにとって驚きと歓びであった事は言うまでもありません。

続けて、黄麹に関しては100年以上の歴史ある蔵だからこその出現(蔵の中の空気中、そして麹室の木の中に生息している)だと国税局の鑑定官さんからも驚かれたそうです。

『三種混合麹』は、まさしく『時を超えた菌』として慎弥さんの中で重要な意味を持つ発見となりました。(ここ50年ほどの見ても中村酒造場さんで黄麹を使った銘柄はなかったとの事)

更に驚きだったのが、その出現した種麹を、白1:黒1:黄1 (1:1:1)の割合で種付け作業を行ったところ、一般的に強力な菌として知られる黒麹を抑えて、まさかの『黄麹』が優勢になった麹ができたという点です。

少し専門的な話ですが、焼酎造りには雑菌をやつけてくれるクエン酸が必要です。白麹、黒麹はクエン酸を生成するので焼酎造りにおいて一般的に使われるようになりました。日本酒や醤油、味噌などに使われる黄麹はクエン酸を生成しないので焼酎ではあまり使われることがありません。

そんな中、中村酒造場さんで誕生した黄麹は、白麹と黒麹にしかできないと考えられていたクエン酸の生成を、なんとできてしまう黄麹だったのです。

成分分析の結果、この表向き黄麹に見える麹菌は、その成分の中に白麹と黒麹の遺伝子も備えた『ハイブリッドな麹菌(白×黒×黄色)』である事がわかりました。中村酒造場さんの長い歴史が想いを繋ぎ、まさしく『時を超えた菌』が産声をあげた瞬間でした。

(※ちなみに写真は実際に造りで使用された三種混合の種麹の一部で、茶色っぽいのが白麹、黒っぽいのが黒麹、緑っぽいのが黄麹です)

【三種混合麹での焼酎造り】は、もちろん大量生産はできないものの、少量でもチャレンジしていくべき重要な取り組みとして毎年実施されています。

2022年度、2024年度、三種混合麹を使用した[the traditional(ザ トラディッショナル)]シリーズと[+innovative(プラス イノベーティブ)]シリーズ↓↓↓
https://nomiyama-shuhan.shop/news/684d12a822d8567d6501d7cd

2023年度に黄金千貫でチェレンジされた一本がこちら↓↓↓
https://nomiyama-shuhan.shop/items/66c3ed86dacada0135edc31a

2024年には『三種混合麹』の焼酎と同時リリースで【酵母無添加】もリリース。

こちらも背景としては『三種混合麹』と同じく、『風景が浮かぶ酒』を造るためには"その土地に根ざしたもの"を使う必要があり、それはもちろん長年蔵に棲み付く『菌』も同様であるという理念に基づいて生み出されました。

ひと昔前までは、"腐造"と言って蔵が悪い菌に汚染されてしまうリスクを冒さないために、酵母無添加での焼酎造りなど持ってのほかだったそうです。
(※通常は焼酎用酵母を添加して発酵させます)

ただ、昔と今では蔵の衛生管理が行き届いているという背景もあり、チャレンジする蔵も少しずつ出てきました。

中村酒造場さんもその一つとして2024年に酵母無添加での焼酎造りを実施。その結果、芯のある上品な穏やかさ、素直さが魅力的な美味しい焼酎が誕生しています。

こちら↓↓↓
https://nomiyama-shuhan.shop/items/66c3f08bba8c3d003f3a976d

今後も、年に一度の限られた期間しか造る事ができない中村酒造場さんの挑戦をしっかり伴走して応援していきたいと思います。

蔵に運び込まれた収穫したての立派な黄金千貫。慎弥さんの言葉の節々からは農家さんへのリスペクトを感じました。

芋を洗う蔵人さんの勇ましい後ろ姿。

蒸留したての『なかむら』。出来立てのフレッシュ感と甘く香ばしい芋の香りが口いっぱいに広がります。何より驚いたのはとにかくスムーズな飲み心地だという点。一般的に刺激の強いとされる新酒でここまでスムーズなのは丁寧な造りの賜物だと思いました。

蒸留後は熟成用のタンクへ。飲み頃になるまでじっくりと熟成されます。

「なかむら」の顔、和紙のラベルも言わずもがな全て手作業で貼られていきます。

蔵での研修を通して、一本のお酒は、芋や米の生産者さんからはじまり実に多くの人々の手が入って造られているのだと改めて強く実感いたしました。

一族の生き様が詰まった中村酒造場さんの焼酎には、人をゾクゾクさせる何かがあります。(冒頭の『びびびび』と同義)

分かりやすくキャッチーな香り系の焼酎の存在が焼酎の間口を大きく広げてくれている昨今。

中村酒造場さんの酒は、流行にのった派手さはありませんが、感覚に訴えかけてくる本質的な『美味しさ』、更には『美味しい』の先にある『風景が浮かぶ酒』であることは間違いありません。

私が尊敬する師匠も言われてましたが、世間の評判は誰も幸せにはしてくれません。

味覚の世界で自分を幸せにするのは、自分の感覚のみです。

ノミヤマ酒販では皆さんそれぞれの感覚で、ご自分に合ったお酒をご自分で選べるようになることを目指しています。

自分のためにお酒を選べれば、大切な人のために一本のお酒を選べるようになります。

豊かな人生を歩いて行くために、少しだけお酒が手助けをしてくれるはずです。

玉露(白)

素朴でほっこり癒し系の芋焼酎です。

ぐっとパンチのある芋感を感じつつも軽快にスルスル飲む事ができます。

茶割りや、へべすなどでアレンジしてもおいしいので、ぜひ皆さまのお気に入りの飲み方を探してみて下さい。


900ml/¥1,125(税込)
1800ml/¥2,115(税込)

玉露 (黒麹)

イケメン俳優(バラエティもこなせる)系の芋焼酎です。

シャープでキリッと、甘やか(な表情)でキレの良い味わい(トーク)。どんな飲み方も匠に演出してくれます。

事前に空いた瓶に前割りをしておいて、それをロックやソーダ、お湯割などで家飲みで楽しんでおられる通な料理人さんもいらっしゃいます。

(※焼酎の前割りとは、焼酎をあらかじめ水で割り、数日(1日~1週間程度)寝かせてから飲む方法です。焼酎と水がなじみ、まろやかで飲みやすくなるのが特徴です)

900ml/¥1,125(税込)
1800ml/¥2,115(税込)

玉露 甕仙人

迷ったらこちらからどうぞ!
甘やかで香ばしく、コクのあるTHEスタンダード芋焼酎。

ソーダ割り、水割り、お湯割り、ロック、何をしても美味しいです。
綺麗で品のある味わいは手造りならではの仕上がりです。

ブルーボトルは宮崎県小林市の契約農家による小金千貫のみを使用した限定商品です。我が家に常備している店主もお気に入りの一本でもあります。

個人的オススメの飲み方はズバリ氷少なめの水割りです。

玉露 甕仙人
720ml/¥1,595(税込)
1800ml/¥2,750(税込)

玉露 甕仙人 ブルーボトル
720ml/¥1,705(税込)
1800ml/¥3,355(税込)

なかむら

中村酒造場の横綱的存在。
オススメの飲み方はズバリお湯割りです!!

身体にも心にも沁み渡ります。

720ml/¥1,705(税込)
1800ml/¥3,355(税込)

(右から)

[the traditional]Aqua(アクア)

「新しい伝統を、これから私達が造り後世に残していこう」という姿勢が込められている未来に意志を繋ぐ焼酎です。

親しみやすく奥深い一本。

550ml/¥2,640(税込)

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[+innovative]Flare(フレア)

「破壊と再構築」をテーマに取り上げた新しい世界観。

中村慎弥氏が焼酎界に一石を投じる意欲作です。

550ml/¥5,500(税込)

中村酒造場さんのオールラインナップはこちら↓↓↓
https://nomiyama-shuhan.shop/?category_id=63905abd8d26fa07d72ef228