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奥伊勢の山郷が奏でる、安らぎのグルーヴ

ユネスコ・エコパークにも認定されている三重県大台町。
大台ケ原山地の峰々が連なる深い山あいを、清流日本一にも選ばれた「宮川」が静かに流れています。
豊かな自然と人の営みが息づくこの地に、時流に流されず実直な酒造りを続ける蔵があります。

──元坂酒造。

創業は1805年。蔵のある柳原地区は、宮川中流域の河岸段丘に位置し、地形を活かした小規模な棚田が広がる、日本の原風景とも言える美しい土地です。

代表銘柄は「酒屋 八兵衛」と「帰農 KINO(きのう)」。
「グラス一杯の煌めきよりも 一晩の安らぎを」をコンセプトに造られるその酒は、肩の荷がふっと降りるような、ほがらかで品のある純米酒です。

今回は、この“安らぎの酒”の源泉を探る旅へ出かけました。

■ 伊勢に息づく「常若(とこわか)」の精神

三重県に到着し、出迎えてくださったのは7代目蔵元・元坂新平氏。
店主・許山の同級生でもあり、酒への志向も共鳴する造り手のひとりです。

まず新平さんに案内されたのは、「日本の心のふるさと」と称される伊勢神宮。
「伊勢神宮にはすべてのことに意味がある」と語る新平さんの言葉どおり、建物の構造や位置、橋の形にまで宿る意図を丁寧に教えてくださいました。

特に印象的だったのが、「常若(とこわか)」の思想です。
それは“永遠に若々しく” “常に新しく生まれ変わる”という意味。
伊勢神宮では20年に一度、社殿をそっくり新しく建て替え、御神体を新殿へ遷す「式年遷宮(しきねんせんぐう)」が行われます。

古きを残すのではなく、同じ形で造り替えることで“永遠”を実現する──。
この更新の連続こそが「常若」の精神なのです。

式年遷宮では、1,500点に及ぶ装飾品までもすべて新たに作り直され、1,300年もの間、神社としての“姿”と“機能”が継承され続けています。
しかも20年という周期は、職人が人生で三度携われるよう設計されたもの。若手・中堅・ベテランがともに手を動かすことで、技術と心が次代へ受け継がれていくのです。

この仕組みを1,300年前に確立していたことに、日本文化の奥深さと誇りを感じずにはいられませんでした。

■ 「伊勢錦」に宿るテロワール

伊勢神宮を後にし、蔵に到着すると、最初に案内されたのは元坂酒造が復活栽培に取り組む酒米「伊勢錦(いせにしき)」の自社田でした。

日本最古の酒米とされるこの品種は、旧勢和村(現在の多気町)で発見され、お伊勢参りを通じて全国へと広まったといわれています。その血脈は、今や主流品種「山田錦」にもつながっています。

在来原種の伊勢錦は背が高く倒れやすいため栽培が難しいものの、元坂酒造では約20年にわたる試行錯誤の末、現在では契約農家を含め約15トンを収穫するまでになりました。

新平さんはこの伊勢錦を、イタリア・フリウリ地方の土着品種「ヴィトフスカ」に重ね合わせて語ります。
彼が敬愛する造り手、パオロ・ヴォドピーベッツがひとつの品種のみでテロワールを表現するように──
「いつかは伊勢錦だけで土地の記憶を表現したい」と目を輝かせていました。

偶然にも、パオロ・ヴォドピーベッツは私も敬愛する造り手。
日本酒もワインもジャンルは違えど、「何を表現したいか」という根源は同じ。
こうした対話から生まれる本質的な気づきこそ、造りの現場を訪ねる醍醐味だと改めて感じました。

■ 蔵に息づく「常若」の手仕事

蔵に戻り、造りの話を伺います。
元坂酒造では、食・酒・音楽・カルチャーに造詣の深い兄の新平さんが代表を務め、大学で醸造学を学んだ実直な職人肌の弟・彰太さんが杜氏を務めています。

訪問した9月は仕込み期ではなかったため、もろみを見ることはできませんでしたが、その代わりに“造りの魂”を感じる光景が広がっていました。

酒造りの道具が一つひとつ分解され、徹底的に洗浄・整備されていたのです。
麹室の机の部品やネジに至るまで全て分解し、できるだけ薬品を使わずに洗う。
「全部バラして組み立てる。これでまた新品の気持ちでやれるんです」と新平さん。

まさにここにも、「常若」の精神が息づいていました。

■ 超軟水が生む、やわらかな余韻

清流・宮川の伏流水を仕込み水に使う元坂酒造の水は、硬度約23の超軟水。
一般的な市販の軟水(「南アルプスの天然水」「いろはす」など:硬度約30)よりもさらにやわらかく、口当たりのまろやかさを酒にもたらします。

「この清純な伏流水に米の味を溶かして発酵した飲み物が日本酒なんです」と新平さん。

さらに続けます。
「実った稲が黄金色、稲刈りの跡がセピア、精米した米が白。酒造りは白を基調としたモノトーンの世界。
これらさまざまな色を経て、最後に透明なお酒が生まれます。つまり、この透明な酒には、すべての色が溶け込んでいるんです。」

日本酒という透明な液体の中に、無数の色彩を見出す──。
その感性が、元坂酒造の酒に静かな奥行きを与えています。

■ 安らぎのビートを奏でる酒

元坂酒造の酒は、華やかな吟醸香をあえて控え、米の旨味をじっくりと引き出すことで、長い時間ゆるやかに寄り添える酒質に仕上がります。

「グラス一杯の煌めきよりも 一晩の安らぎを」

この言葉の通り、土地の恵みと伊勢の精神が宿る造り手の技がグルーヴして生まれる“安らぎの酒”。
「日本酒は人間も含めたテロワール」と語る新平さんの哲学が、その一滴一滴に宿っています。

今回は、伊勢に根付く精神性とテロワールが溶け込んだ「酒屋 八兵衛」と「帰農 KINO(きのう)」の魅力を、存分に体感することができました。

是非皆さまの日々の癒しのお共に、「酒屋 八兵衛」「帰農KINO(きのう)」を感じるままにお愉しみいただけますと幸いです。

その先には、静かに流れる安らぎのリズムがきっとあなたを癒やしてくれるはずです。

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