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笑顔がこぼれるうまい酒

古くから山々に囲まれた自然溢れる地であり、忍者の郷としても知られる滋賀県甲賀市土山町。

ここに古き良きものを大切に、手間隙を惜しまず伝統的な製法を大切に守り続ける家族経営のとても小さな蔵元があります。

1884年創業の安井酒造場さんです。
生産量は何と100石ほどとの事で、本当に小さな蔵元です。
(※日本酒の生産規模は「石」で表します。(1石=180L))

やさしくも芯のある酒質の「生酛太郎」「初桜」は、お食事とも相性抜群で自然と笑顔がこぼれます。今回はそんな「笑顔がこぼれるうまい酒」の魅力の発端を探るべく滋賀に行ってまいりました。

笑顔が素敵な安井ファミリー。
五代目杜氏の利晴さん(写真左)が「初桜」を醸し、六代目の太郎さん(写真右)が「生酛太郎」を醸しています。お母さまの恵さん(写真中央)は書道の先生もされていて、新酒のラベルやポスターの水墨画及び書体は恵さんが手掛けられています。(写真下)

待ちに待った見学当日。太郎さんに連れられてまず向かったのが、広大に広がる茶畑。ここ土山町はお茶の一大産地であり、伝統的な「土山茶」が製造されています。

冬季の酒造りの時期には、お茶の生産者さんが安井さんの酒造りの手伝いに、逆に夏季は太郎さんが茶畑を手伝いに、持ちつ持たれつの助け合いの精神で事業を進めておられます。

そんな自然豊かな環境の源は、岐阜県及び三重県と滋賀県との県境沿いに位置する鈴鹿山脈です。やわらかで豊富な鈴鹿山系の伏流水はこの地に多くの恵みをもたらしています。

写真は安井酒造場さんの仕込み水の源泉でもある「野洲川(やすがわ)」です。ご覧の通り人工の建造物が一切見当たらないほどの大自然という事もあり、NHKの大河ドラマの撮影地としてもたびたび使われているのだとか。

野洲川は、滋賀県を流れる淀川水系の一級河川であり、琵琶湖への流入河川では最長となります。

琵琶湖には何と約450本もの流入河川があり、この河川の水質によって滋賀県の蔵元の水質も変わってきます。滋賀の日本酒がバリエーションに溢れている理由の一つは、この琵琶湖を中心とした自然環境によるものなのです。

こちらが安井酒造場の「命」とも言える仕込み水です。

明治17年の創業以来、鈴鹿山系の伏流水であるこちらの水を仕込みの全工程に使用しておられます。

無濾過で使えるほど素晴らしい水を試飲させていただきました。マジでめちゃくちゃ美味しかったです。

安井酒造場さんでは、こちらの仕込み水が豊富に湧き出す井戸を年に一度掃除する「井戸替え」を行い、大切に守り続けておられます。

また、安井酒造場さんを語る上で欠かせないのが「搾り」の工程です。今ではほとんど使われる事のなくなった「佐瀬式木槽」を使用して搾りを行っておられます。

現在多くの日本酒蔵が使用している「ヤブタ式自動圧搾機」と比べると効率も能率も劣ってしまう方法ですが、この搾りでないと出せない"優しさ"があるという事で、昭和39年式の佐瀬式木槽を今でも大切に使い続けておられます。

お酒が産まれて最初に触れるのが”金属”なのか”木”なのか。「空気に触れても優しさが残る」という太郎さんの言葉が印象的でした。

また、とことん優しく搾るという事で、お酒だけでなく、びっくりするくらい酒粕も美味しくなります。
この酒粕を使った粕漬けは悶絶ものですよ。

写真は福岡県宗像市にある名店「こなみ」さんが安井さんの酒粕を使って作られた菜の花の粕漬けです。

うますぎます。お酒がとまりません。。笑

「こなみ」さんではもちろん安井酒造場さんのお酒もお飲みいただけます。是非行ってみられて下さい。

搾りを終えた酒は、酒質に応じて生のまま冷蔵庫や火入れ後にタンク熟成など、まざまな方法で熟成させていきます。

優しさの中に感じる複雑な旨みのバランスはこの熟成が一役を担っており、安井酒造場さんにとって、大切な工程です。

六代目の若き造り手安井太郎さん。
「秋鹿」の秋鹿酒造さん、「天青」の熊澤酒造さんで修行されて、家業である安井酒造場へ戻られました。

蔵に戻り、太郎さんが秋鹿酒造さんで学ばれた生酛造りを駆使して醸されるようになった酒が、"生酛太郎"シリーズです。

手間暇かかる生酛造りの深い味わいを幅広く多くの皆さまに知ってほしいとの思いから、いわゆる辛口より甘味にこだわっています。

ただ、発酵を途中で止めてしまう甘味ではなくて、しっかりと発酵をさせた甘味を追求されているので、出来上がった酒は甘ったるくなく、楽にスイスイ飲める酒質となっています。

「生酛太郎」、「初桜」の魅力である、"やわらかみ"、"あたたかみ"、"やさしみ"の源は、自然豊かな鈴鹿山系の伏流水、地元産の近江米、非効率的だからこそ心が宿る佐瀬式木槽での搾りの工程、そして何より、太郎さんのどこかひょうきんで優しみのあるお人柄にあるという事がわかりました。

「生酛太郎」、「初桜」、個人的には断然燗酒推しですが、冷酒でも常温でも飲んでもとっても美味しいですよ。

香りが華やかなお酒が一世風靡している昨今、生酛太郎、初桜のような、派手さはなくとも素朴であたたかいお酒の魅力を是非若い方々にも知っていただきたいと思っております。

AS TIME GOES BYシリーズ。

地元滋賀で「大治郎」を醸す同志の蔵元「畑酒造」さんとの共同企画されたお酒です。

コロナ禍においてお酒の需要が大打撃を受け、生産量の調整を余儀なくされたり、製造量を減らそうとする動きの中、契約農家さんに作付けしていただく面積を大幅に減らすことはお互いのためにならないという想いから、同じ契約農家さんと繋がりのある畑酒造さんと「計画熟成酒」として企画されました。

マジで美味しいので是非飲んでいただきたいです。

「生酛太郎」「初桜」のやさしくも芯のある酒質は、本当にお食事とも相性抜群です。

写真は太郎さんに連れて行っていただいた大津の居酒屋「直(ナオ)」さんの「稚鮎の卵とじ」です。今の時期しか食べられない稚鮎を甘みのあるお出汁ベースで卵とじにしてあります。

生酛太郎の燗酒と合いすぎて、思わず「笑顔がこぼれました」。

太郎さんはじめ、利晴さん、恵さん、この度は本当にありがとうございました!!

皆さまもこの機会に、次世代の造り手の醸す、「笑顔がこぼれるうまい酒」を是非是非ご堪能下さいませ〜。

安井酒造場さんのお酒はこちらから↓↓↓
https://nomiyama-shuhan.shop/?category_id=667e4695bd9ebe00365440d0